
国道58号線を北へと走る。
夏の名残りを含んだ熱い大気が水平線までを埋め尽くし、
その最果てを沸き上がる夏雲が縁取っていた。

開け放った窓から吹き込む風は静かだった。
遥か彼方へと続いてゆく灯色のセンターラインの先には、
潮騒と競り合う濃い緑の香りだけが満ちている。


北端の岬をめざそうという考えに、特に深い理由はなかった。
ただ普段は何事にも深い執着を持てない私のような人間が
何故か惹かれてやまないこの南の楽園の、
その最果てという場所を見てみたかっただけだ。

幾つかの橋を越え、幾つもの隧道をくぐり、
そうして辿り着いた北端の岬は、
圧倒的な大海に迫り出した険しい岩肌と、
噎せ返るような原初の自然が織りなす
まさに大地の尽きる場所だった。


紺碧の海はどこまでも蒼く深く澄み渡っている。
眼下の珊瑚礁を洗う波音が幾重もの唸りをこだまさせ、
強い陽射しが岩縁の下生えを焼いていた。


岬の上を吹き渡ってゆく音のない強い風に晒されながら、
目の前に広がる雄大で容赦のない世界を見渡した。


しかし心の片隅で密かに期待していた、
この南の世界に自分を惹きつける
なにか特別な「理由」のようなもののカタチを、
そこに見つけることはできなかった。

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海へと緩い傾斜が続く細い街路を歩いた。
緑に縁取られた鉛色の集落が往く手を幾重にも辻折れてゆく。

早い夕陽に暮れなずむ、そんな箱庭のような小さな空間の先へ、
踏み込んでは迷い、ただ目的もなく歩き続ける時、
視線はファインダーを外れて、虚の彼方を彷徨いはじめる。


国道からほんのわずかに道をそれた海辺の集落の
鬱蒼としたフクギ並木に埋もれるその細々とした道行きには人影もなく、
行き着く先をどうにも見定まらせない不思議な迷路感に溢れて、
迷子を楽しむ私の五感をゆっくりと麻痺させていった。


うねる苔むしたブロック塀が赤瓦の家屋を囲う世界で、
砂岩舗装の街路の真ん中に走る排水路だけが
まるで何処かへ誘く道標のように果てしなく続いてゆく。


高い夏空に逆らうような冷たい風が足下を薙ぎ去っていった。
フクギ並木のざわめきと、その冷たい風に誘われて歩みを東に進めると、
道果てに四角く切り取られた空と海がぽっかりと口をあけている。

集落の尽きる海辺には高い護岸で守られた小さな浜が広がっていた。
背後に広がる集落と似通った人影のない静かな浜だ。
低い陽射しに照らされ砂浜を這うグンバイヒルガオを伝い、
微かな潮騒と濃い海の香りが立ち昇ってくる。


彼方の水平線には伊平屋島と伊是名島の島影が微かに浮かび、
南の岬の影には伊江島の尖った稜線が早い夕陽に照らされ輝いている。


宿へと戻る道すがら振り返ると、
さっきまで私の立っていた海辺を眺めながら
日暮れのおしゃべりをいつまでも楽しむおばぁ達のシルエットが、
遠い空を背景にぽつりと浮かび上がっていた。

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輝く陽差しを薙ぐように、
冷たい風が吹きすぎていった。

遠く紺碧の大海を望む城壁を越え、
古木の幹をなめ、背後の深い森の彼方へ
風は絶えることなく吹き寄せ続ける。


崩れかけた石積みに腰掛けた私の前には、
遠い昔に滅んだ王国の記憶が横たわっている。



険しい山間の地形に合わせて、
優美な曲線を描く琉球石灰岩の城壁のうねり。
針穴のように穿たれた門と門をつなぐ石畳の郭路。


かつて此処には強大な王たちが君臨し、
飽くなき栄華と覇権を他国と競っていたという。
見下ろす土地は豊かで、港には貿易船が連なり、
聳え立つ楼閣には多くの麗人が集い賑わっていたことだろう。


しかし今は冷たい風だけが
静かに虚空の底へと吹き寄せている。



城跡の隙間を抜ける風音に心を澄ますと、
砕け朽ちかけた石積みの一つ一つが記憶する
遥かな昔の猛者たちの猛々しい雄叫びが、
幻のように浮かび上がってはゆっくりと消えていった。

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沖縄にいます。
雨を狙った今年初めての南方行脚は
狙いもむなしくとても良い天気に恵まれてしまいました。

さすがに夜は肌寒いですが、
そこは南国、日中はTシャツ一枚でも汗ばむほどの陽気。
空は初夏の色、海はすでに真夏の色合いを帯びて光り輝いています。


内地から着込んできた皮ジャンをレンタカーのトランクに放り込み、
恥ずかしくなるほど色の落ちた腕を窓から晒して島内を走ると、

不思議なものです、自分の中の歪なチャンネルが
大きな音をたててガチャリと切り替わりました。

単純ですが、しばらく手こずっていた
なんだかわからないワダカマリや、得体の知れないタテマエが
ゆっくりと自分の中の優先順位からこぼれ落ちてゆくのを感じます。


得体の知れない他国の軍用機が舞い飛び、
素朴で都会のような洗練さとは無縁の島。


しかしここには私が一番好きな匂いが満ちています。
そしてなによりも大きく仰ぎ見上げることができる空が広がっています。

夕陽が迫る道の彼方に、
まだ生まれていない新鮮な出会いと、かけがえのない思い出の卵が
笑顔で待っていてくれることを祈って

今年もカメラ片手の旅が始まります。

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# by amboina | 2011-02-26 03:03

それは突如として始まった。
鮮やかな紫の頭巾に白装束、袖をまとめた赤い襷。
腹には馬頭を括り付けた珍妙な出立ちの男たちが
賑やかな音楽と共に軽快に踊り舞っている。

腹の馬頭に結んだ手綱を雄々しく掲げ、
馬に跨がった武士の姿を模して時に激しく、進んでは退き、
威声をあげては宙を舞う数十人の男たちの影。


彼らが御する幻の馬の口がいなないた。
見えない後脚を蹴り上げ、
在るはずのない鬣が島の風に揺れる。


男たちはその荒馬を自在に乗りこなし大地を跳ね、
雄々しい掛け声と共に意気揚々と喝采の中を進む。
嵐を押しのけ、陽射しを呼び込んだ庭の芸能が
やがて幕を下ろそうとしていた。


その最後の瞬間を見守る天に祈りを返すように、
男衆の足はひときわ高く上がり
幻の馬とともに軽々と宙に舞い上がった。

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# by amboina | 2011-02-07 18:25
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