Amboyna's Color

夕陽の記憶

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海を背に集落の外れまで歩くと三脚を立てた。

時には海辺ではない別の場所で、

この島に沈む夕陽を撮ってみたかったからだ。




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太陽はまだ高かった。

カメラを取り付け、構図を考えながらぼんやりタバコを吸っていると

一台の古ぼけた軽トラックが私の傍らに寄って停まった。

「こんなところで何を撮る?」

訝しげに窓から顔を突き出したその老人に理由を話すと、

彼はしばらく私と三脚のカメラを見比べ、

おもむろにニヤリと笑った。

「この季節なら良い場所がある、教えてやろう」




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急いで宿へ戻り、カメラ道具一式を背負って自転車に飛び乗った。

集落の外れから外周道路をぐるりとまわり、島の南側の小さな浜をめざす。

辿り着いたときには夕陽が遠く西表島の麓に沈もうとしていた。




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息を飲むような絶景だった。

いまだかつてこんな美しく沈む夕陽を見たことがなかった。

私は切れる息でカメラをセットし、夢中でシャッターを切った。




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夕時の浜遊びにやってきた女性客が、

私がレンズを向ける彼方を覗いて小さな歓声をあげる。

その時、私は去り際に老人が囁いた一言を思い出していた。




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「そこは50年前、俺がばあさんを口説いたところだ」

そう言った老人の目には、大切な秘密を打ち明けるにはふさわしくない、

いたずらっぽい光が宿っていた。




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優しい島人とド素人カメラマンのふれあい実話シリーズNo.3です。

これはいくら何でもちょっと出来過ぎだろう!
と疑われるかもしれませんが、本当に本当の話なんですってば。
まぁ、例によって多少脚色はしましたけどね…

実際のところ、こういう幸せな遭遇ってあるものだから不思議なもんです。
あの日、私がいつものように海へ向かっていたらあり得なかった展開ですし、
そもそもあの老人が私なんぞを無視すれば、これまたなかった話です。

はたしてあの日、あの時、あの人は、
どうして私なんかに声をかけたのだろうと、今でも不思議でなりません。
何故ならあれ以来、彼は私を見かけても一言も声をかけてくれないんですから…

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あれは夢だったのかな。
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by amboina | 2010-05-29 09:12 | 八重山