Amboyna's Color

午後のいざない

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海神祭の翌日。爬龍船競漕で湧いた集落をひとり訪れた。

祭りの熱気が拭い去られた港を背に、

小雨の舞い降るひっそりとした家並みを眺めて歩く。




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道端の木々も屋根の瓦も一様に苔むして見えた。

しっとりと湿った空気の中に静かな気配が充満し、

そぞろ歩く私の足音を飲み込み消してゆく。




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集落の中心近く、目を奪う明るい大輪が揺れていた。

雨雫を纏ったその明るいハイビスカスがあまりに美しかったので、

何枚か写真に収めていると、かすれた小さな声が笑った。

「にいさん、そんなにハイビスカスが珍しいか」




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振り返ると、小柄な老婦人が道端に佇み私を見つめていた。

大きな眼鏡の奥で優しい瞳が微笑んでいる。

「今年は雨が多いからね、そら、花も大きく開くよ」




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お茶でも飲んで休んでいきなさいねと、

手招く彼女についてふらりとくぐった門の先には、

少し痛んだ琉球家屋と手入れの行き届いた緑の庭が広がっていた。

そしてその庭に面した小さな縁側で、彼女は私の隣に座り、

夢を見るようにやさしく頷いた。




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この家のほとんどの部材に使っている虫に強い木の話。

庭木として大切にしているという黒木の由来。

御盆に帰ってくる孫達のために育てている鉢植えの花の話。

彼女が徒然に口にする物語はすべて、

縁側から眺める事のできる木々や緑の話だった。




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二杯目のお茶を啜り終えた頃、

近くの小学校で下校を知らせるチャイムが鳴った。

その音を潮時にお茶と話の礼を残して腰を上げると、

彼女は門の外まで見送りに出てくれた。




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雨は細く、変わらず集落の道をどこまでも濡らしている。

それでも時々、流れの速い雲の切れ間から差し込む小さな日溜まりが、

黒々とした路面のあちらこちらに明るい光の帯を投げかけていた。




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「雨が強くなったら戻ってくればいいさ」

門前の石垣にもたれ小さく手を振る、そんな老婦人の言葉が、

なぜだかとても嬉しかった。




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久米島の第四弾です。

祭りの終わった街の気配が好きです。
昨日まで溢れかえっていた人影も消え、しんと静まり返った街角は
全力疾走の後の虚脱感のようなものが至る所に染み付いていて
不思議な感覚に陥ります。
そしてそんな静かな雨の街で交わした島のおばぁちゃんとの会話も
また時間が停まったような不思議な体験となりました。
ふと現れ、自然に家へ招かれ、何も疑わず同じ空間を共有するひととき。
まるで竜宮城に迷い込んだ浦島太郎の気分でした。

上里のおばあちゃん、
美味しいお茶と素敵なお話をどうもありがとうございました。
もうじき待ち焦がれていた御盆ですね。
沢山のお孫さんに囲まれて笑っている
楽しそうな貴女の姿が眼に浮かぶようです。

どうかいつまでもお元気で、
そして来年またお会いしましょう。

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by amboina | 2010-07-23 08:36 | 南方行脚