Amboyna's Color

夜の鼓動

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夜のしじまを縫うように細かな雨が舞っている。

夕刻から広がりはじめた分厚い雲が、

空から月と星の気配を覆い隠していた。




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更けきった夜の集落に、いつもは響いてくる楽の音はない。

かわりにさざめく人々の足音が砂道を慌ただしく通り過ぎてゆく。




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種子取祭本番を明日に控えた己丑の日の宵。

島の定められた各々の場所では仕込みと呼ばれる

奉納芸能の最終リハーサルが静かに始まろうとしていた。




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雨戸や襖などの仕切りを取り外された一軒の古民家。

煌煌と照らす明かりの下に衣を正した島人達の姿が浮ぶ。

居並ぶ村の長老や主事が取り巻くその座敷の中央では、

畳を踏みならし声を張り上げる人影が勇壮な口説や狂言を舞い踊っている。




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決して長くはない時間、演者は長い時間積み重ねてきた修練の粋を披露し、

長老達はそのひとつひとつを吟味し、細かな感想を付け加えてゆく。




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庭には落ち着きなく出番を待つ者、

仕込みを終えて安堵の一息をつく者、

互いの出来を批評し合い、

明日の不安を払うように次の仕込みに見入る者。




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そこに毎夜の練習で見かける笑顔や和やかさは微塵もない。

ただ言い知れぬ高揚感と緊張感だけが静かに座を満たしていた。




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艶やかに舞踊を舞う女性達の謡が、彼方の夜闇を抜けて響いてくる。

明日を呼ぶような、朗々としたその調べが消えてゆく空の向こう、

見上げた頬を濡らす細雨の先、手を伸ばせば届くほど間近に

まぎれもない祭りの足音は迫ってきていた。




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ようやく祭前夜です。
いつまでたっても本編が出てきませんが、もうちょっとお待ちを。
本番はもちろん素晴らしいのですが、こうした事前の細かな行事というのも
なかなか意味深く雰囲気があって良いものなんです。
特に祭り前夜に行われるこの行事は、毎年どうしても見逃す事ができません。
観るたびに、ただ写真を撮るだけのお気楽な私まで
「うわぁ、明日はもう本番だ。どうしよう…」などと勘違い的にテンパらせてもらえる
重々しい雰囲気がムンムンしています。

ところで島では「仕込み(ふくみ)」と呼ばれているこの最終リハーサル。
聞けば上の記事で紹介した以上に緊張を強いる理由もあるそうで、
親しい島人が現場でこっそり耳打ちしてくれた話によると、
この仕込みの出来によっては役を降ろされることも有り得るとのこと。
まさかそこまでは…、と振り返って見た彼の目はしかし恐ろしく真剣。
「ひょっとして自分も…」という不安がその瞳の奥でチラチラ踊っておりました。
当然です。舞台に立つ島人達は誰もが何ヶ月も前から仕事の合間を縫って
夜遅くまで練習している訳ですから、もしもそうなったら目も当てられません。
おのずと緊迫感も盛り上がってくるのも道理だと納得させられました。

祭りの芸能は人に見せる為にやっている訳ではない。
島を豊かにしてくれる神様をもてなす為にやっているのだ。
だから中途半端な芸では奉納する意味がない。

初めて祭りを観にやってきた時、そう熱く言い聞かされた言葉の意味が、
こうした練習を観るたびに蘇ってきます。
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by amboina | 2010-11-06 16:49