Amboyna's Color

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旅の終わり

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長い旅も終わり、やがて島を去る日がやってくる。

当然いつかは帰らないといけないわけだが、

島に行く日を指折り数えて過ごした長い時間に比べると、

それはあっけなく、突然にやってくる。




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荷物をまとめ、港で船を待つ僅かの時間。

身体から「まだ帰りたくない」という未練が少しづつ抜けていき、

「またくればいい」という心地よい脱力感が満ちてくる。

高速船の最後部で、真っ白な航跡と飛沫の彼方に遠ざかる島影を見送ると、

気持ちは自然にこれから戻る地元での生活に切り替わっていった。




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だが、主島のターミナルを抜け

空港へ向かうタクシーに乗り込む頃になると、

毎回必ず沸き上がってくる別の感慨がある。




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自分のいなくなった島では、そろそろ夕食の支度がはじまっているだろう。

気の早い島人が早くも一本目のビールを開けているかもしれない。

民宿の老夫婦は今日も仲良くゲートボールに出かけただろうか。




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疎外感や寂寥感ではない。

むしろほのぼのと胸の内に広がる、柔らかで優しい感慨だ。

そんな想いは、空港に着きチェックインを済ませ、

これから自分を現実世界に連れ戻してくれる翼が飛び立つまで、

途切れ途切れに続く。




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シートベルトの装着サインが消えた頃。

座席の上で強引に身体をねじ曲げ窓の外を振り向くと、

つい何時間か前まで自分が立っていたその島が

夕陽に染まった大海にぽつんと浮いていた。




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by amboina | 2010-05-07 01:31 | 八重山

アコークロー

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中世ヨーロッパのドイツでは満月のことを

「天の覗き窓」と呼んだという。

夜空に輝く眩い円形を、神のあけた覗き窓に例えたのだそうだ。

そういえばと、あらためて眺めてみると

子供の頃に濡らした指であけた障子の穴に似ていなくもない。




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沖縄では「アコークロー」という、

マジムンと呼ばれる魔物が出没する時刻があるのだそうだ。

大方は夕方や黄昏時の頃を指すらしいが、

天に開いた円い覗き窓のような月の浮かぶ夜なども、

いかにも禍々しく立派に妖しい時間と言えるだろう。



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誰一人歩いていない集落の道をぽつんと照らす街灯。




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闇の向こうに聳える瓦屋根の巨体。




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ひとたび月の光を浴びれば、

見慣れた電柱の丸木も、海辺の軽トラックさえも

それなりに恐ろしいマジムンに見えてくるから不思議だ。




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などとぼんやり考えながら

月を見上げて歩いている場合ではないのかもしれない。

天の向こう側にいる得体の知れない何者かが

今もじっと、こちらの様子を伺っているかもしれないのだから。




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by amboina | 2010-05-06 01:59 | 八重山

働き者の肖像

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この島の観光業の目玉は、水牛車だ。

ガイドの語る島の歴史や名物の説明を聞きながら、

昔ながらの沖縄の風情を残した集落内を

水牛がひく屋形車でのんびりと廻る。




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その昔、水牛は耕作や移動に使役されていたという。

それ以前に使われていた牛よりも丈夫で、

足場の悪い畑などでの作業に適していたらしい。

今では農作業に使われることはなくなったが、

それでも島のあちこちで観光客相手に健気に働いている。




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そして彼らは意外と個性的だ。

一見しては見分けがつかないようにも見えるが、

よく観察すると、角の長さ、体格、歩く速度がそれぞれに違う。

性格も人間のように多種多様で面白いらしい。




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さらに毎日多くの観光客を載せて牛車をひくその姿は、

角の付け根にアカバナなどを飾られて、中々のフォトジェニックだ。

しかし木陰でひととき微睡む時の顔はなんとも穏やかで、

本来の水牛としての姿が垣間見える。



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夕暮れ時、集落の外れへ連れられる水牛達とよく出会う。

一晩の休みをとりに、空き地や外周道路沿いの草地へ向かうのだ。

借りの寝床で腹一杯に草を食み、星空の下で眠り、

明日になれば再び重い牛車を曳く仕事が待っている。




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この島では、ひとたび歩き出せば

いつでも働き者の彼らに会うことができる。




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by amboina | 2010-05-04 13:41 | 八重山

永遠の正午

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島を潤す短い梅雨が明けて、

若夏と呼ばれる季節をすぎると

大きく固い塊のような真夏がやってくる。




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太陽が天頂に上り、時間が停まってしまったような午後。

容赦のない日差しに影は真下で押し固まって動かない。

絶えた風を求めて、熱い空気が逃げ場のない身体に纏わりつく。




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群青を超えた濃紺の空の下

傍らを通り過ぎた明るい笑い声がパタリと止んだ。

ふたりの女性が、水平線に連なる巨大な積乱雲の山脈を眺めている。




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初めて目にしたのだろうか。

果てしなく広がる南の島の、真夏の海を前に

彼女達はしばらく立ち尽くし

次の一歩を踏み出せないでいた。




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by amboina | 2010-05-03 12:05 | 八重山

火の鳥

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島に持ち込んだ一番大きいレンズとカメラを抱え、

朝の集落を慌ただしく走る私の姿を見て

親しい島人が「何を撃ちにいくんだ」と言って笑った。




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「今、おるよ。ちょうどいい感じだよ」

少し前、私を柄にもない早起きに駆り立てたその電話の声は、

まるで大切な秘密を打ち明けているように、そっとそう囁いていた。



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どこからか、涼しい独特な鳴き声がこだましてくる。

早く早く、という手招きに甘えて遠慮なく上がり込んだその室内で、

優しい笑顔の老夫婦がそっと窓の外の一点を指し示した。

まだ薄暗い森の手前、

二本の小枝の先にその「火の鳥」はいた。




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リュウキュウアカショウビンという美しい渡り鳥がいる。

そんな話を聞いたのは、この島に通いだして3年ほど経ってからだった。

燃えるような赤いくちばしをもった全身朱色の夏鳥だいう。

野鳥の類いに興味はなかったが、火の鳥という異名にそそられて

一度はこの目で見てみたいと思っていた。




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それはまさに「火の鳥」だった。

緋色の翼を羽ばたかせ、枝から枝へと交互に飛び交いながら、

二羽のアカショウビンが寄り添うように巣を守っている。




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しばらく夢中でシャッターを切ってから振り返ると、

窓の外で涼しく鳴き交わす、あのアカショウビンのつがいのような、

睦まじい老夫婦がこちらを向いて優しく微笑んでいた。




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リュウキュウアカショウビン
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by amboina | 2010-05-02 04:33 | 八重山

静かなるもの

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ふと呼び止められたように、

何気ない風景の片隅や、

誰も振り返らない道端の一画に惹かれることがある。




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昨日までは気にも留めなかったカタチが

強烈な印象をともなって迫ってくるのだ。

ひっそりと静かに、だがはっきりと

「ここにいるぞ」と訴えかけてくる。




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「一万の言葉を尽くすより、一瞬の沈黙が全てを語る時がある」

などと小難しく考えたりしなければ、

時折そんな「声なき声」に呼び止められるのも、悪くはない。




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ある日、集落の外れでそんな「声」の一つに出会った。

誰もいない珊瑚の砂を敷き詰めた道上を、

幾つもの丸い窪みが延々と続いている。




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朝日に浮かび上がったその模様は、

まるで擦りきれた足音の化石のように見えた。




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by amboina | 2010-05-01 00:42 | 八重山

繚乱

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沖縄は花の国かもしれない。

美しい海も山も、独特な文化や明るい人柄も素晴らしいが、

何にも増して豊かで分け隔てなく

一番に旅人を迎えてくれるのは南国の花々だ。




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中でも手つかずの自然が残る沖縄の離島は、

まさに花達の王国である。

四季折々、道の徒然、海辺の砂地にも、

名も知らぬ花達が燃えるような色彩を放っている。




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凛と空に大輪を向ける花。

石垣の上でひっそりと寄り添う花。




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萎れてもなお、艶やかさを残す花。

それぞれが艶やかな顔を持って咲き誇っている。




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花に見蕩れて歩いた午後。

歴史的な家屋として保存されている旧家の軒先で

ごちそうになったハイビスカスのジュースは

まぎれもない真夏の味がした。




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by amboina | 2010-04-30 13:23 | 八重山

葉脈の迷宮

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南からの海風が島の上を渡っていった。

やさしい風に葉がこすれ合うたび

島の緑は自分たちだけの言葉で囁き始める。




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陽に照らされた道端の単葉が

木漏れ日の差す茂みの奥の複葉に話しかけていた。

重なりあうたくさんの植物が互いの葉脈を触れ合わせて

道端の単葉の小さな声を暗がりの奥に伝えていく。




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クバの鋸葉がバシャの葉面を撫で、

地を這うセンダングサが幼いフクギの幹を揺する。

吹き抜ける穏やかな風が止んでしまうまで、

その微かな会話は途切れることなく続いていった。




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トリコロールカラーの集落から一歩足を外に向けると

噎せ返るような草木の香りと、

そんな葉脈たちの呟きに出会うことができる。




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by amboina | 2010-04-29 10:21 | 八重山

遊びの時間は終わらない

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陽の沈んだ浜辺から人影が去り始める頃、

ゆっくりと熱を失っていく空に、蒼い世界がやってくる。

夕陽はもちろん息を飲むほど美しいが、

私はこの蒼い黄昏時がいつも待ち遠しい。





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静かに流れていく雲海の端に、今夜最初の星が瞬く。

やがて全天を覆い尽くす壮大な天の川の、ほんの先触れだ。





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転がるように夜の帳が下りていく、その僅かな隙間。

吸い込まれそうな蒼のグラデーションの中で、

波の音だけが小さく大気を満たしている。





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遠くで名を呼ぶ母親の声を振り切って、

まだまだ遊び足りない子供達が

蒼い波打ち際を駆けていった。





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by amboina | 2010-04-28 03:52 | 八重山

常世の扉

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都会では夕陽などめったに眺めはしない。

いつの間にか昼が夜に替わっているという感じだ。

しかしここでは、その夕陽を眺めるために多くの人々が集まってくる。

気のあった仲間と、宿で知り合ったばかりの旅友と、

または独りきりの時間を愉しみに。

朽ちかけた桟橋や砂浜に腰掛けて皆が水平線を見つめている。




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陽が傾くにつれ、水面に揺れる金色の道が浮かび上ってくる。

海を隔てた大きな島影の上で、雲海のふちが細く燃え上がってゆく。

写真や映画の世界で「マジックアワー」と呼ばれる瞬間である。




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やがて沈みゆく最後の一筋に静かな歓声があがる頃、

どこか遠くで島の釣り人がルアーを投げた。




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その鋭い音が、

この海の彼方にあるという

常世の国の扉が閉じる音のように聞こえた。
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by amboina | 2010-04-27 01:22 | 八重山