Amboyna's Color

タグ:夕陽 ( 6 ) タグの人気記事

永遠の一秒前

f0236145_16451484.jpg




夕陽見物で賑わういつもの桟橋に背をむけて、

宿で借りた軽自動車に乗り込み東の海岸をめざした。




f0236145_16451686.jpg




舗装の剥がれた放牧地の一本道を進み続け、

鬱蒼と繁った御嶽の森の中を抜けると、

遠くから静かな波の音が微かに聞こえてくる。




f0236145_16452054.jpg




三脚を抱えて壊れかけた護岸を伝い、

海上標識を足がかりにようやく岩場に降り立つと、

そこにはただ波と風の音だけが囁き合う

黄昏の世界だけが広がっていた。




f0236145_16452161.jpg




背後の森影に茜色の雲が空を幾重にも流れていく。

見渡す限り、人の姿はない。

まるで見知らぬ惑星の海辺に取り残された気分だった。

日暮前に、こんな外れの海岸へなど誰もやってはこないのだ。




f0236145_16452268.jpg




f0236145_16452320.jpg




彼方には溶鉱炉のように燃え盛る眩い坩堝が、

空を染める蒼の世界に別れを告げようとしていた。

その最後の残照が岩場に点在する潮溜まりを染めて、

尖ったコントラストを浮かび上がらせている。




f0236145_16452427.jpg




誰もいない海辺に立ち、

ひとりファインダーを覗き込む私の周囲で、

時間はゆっくりと速度を落とし、そして止まった。

所在のない不安と形のない安堵が足下に揺らめいている。

理由は分からなかった。




f0236145_16452826.jpg




ただ永遠という、あまりに馴染みのない概念が

恐ろしいほど間近に息を潜めているのを感じただけだった。




f0236145_16453534.jpg


More…
[PR]
by amboina | 2010-09-12 17:11 | 八重山

彼方の物語

f0236145_523859.jpg




人影のまばらな桟橋についてすぐ、

彼女は宿に腕時計を忘れた事に気がついた。

大切な思い出が宿った時計だった。

取りに戻ろうかという気持ちがふわりと浮かんだが、

桟橋を中程まで歩き進むと、何故だかそんな気持ちも消えてしまった。

そして今日ぐらい、せめてあの夕陽が沈んでしまうまで、

いつもより少しだけ軽い左手のままでいてもいいかなと、

彼女は思った。




f0236145_523174.jpg




黄金色に染まる水平線を眺めながら、

彼は彼女と初めて手をつないだ日の事を思い出そうとしていた。

遠く島影を疾り抜けてゆく帆船を目で追いながら、

彼女は握りしめた彼の手の指を、飽きる事なく数え続けていた。

朽ちた桟橋に、言葉を失った二人の影だけが長く伸びていった。




f0236145_5233938.jpg




f0236145_5233418.jpg




古い桟橋の先端で、二人は微笑んだ。

出逢ってからまだ半日も過ぎてはいない。

お互いの素性も、仕事も、年齢すらまだ知らない。

なのに、まるで古くからの親友のように

二人の間に語る言葉は尽きることがなかった。




f0236145_527441.jpg




f0236145_5362369.jpg




初めて見る南の島の夕陽は、どこか恐ろしかった。

昼間家族と遊んだ、光に溢れた蒼い海はもうどこにも存在していない。

少年にとって沈む夕陽は、楽しい旅の興奮を容赦なく連れ去ってゆく、

巨大な怪物の最後の断末魔のように見えてならなかった。

夕陽に背を向けた少年を、遠くで父親の影がやさしく手招いていた。




f0236145_5274866.jpg




f0236145_528480.jpg




黄金色に包まれた海辺の片隅で、

私はそんな空想のシャッターをそっと下ろす。

目の前に広がった夕陽の桟橋ではそれぞれの現実が息を吹き返し、

4つの物語はレンズの奥底へ静かに消えていった。




f0236145_5275516.jpg


More…
[PR]
by amboina | 2010-08-14 05:48 | 八重山

幸福の浜辺

f0236145_17222469.jpg




日暮時というものは、おしなべて静かなものだと思っていた。

この日最後の太陽が遥かな地平線や水平線に消えて行く様を、

それぞれ感慨をもって眺める、落ち着いた時間だと。




f0236145_17243971.jpg




空が茜色に染まった週末、追い立てられるように桟橋へ急ぐと、

海辺はスペクタクルを待ちわびる人型のシルエットで溢れかえっていた。

楽しげな声が響き、語り合う様々な会話が折り重なって、

穏やかな海辺を埋め尽くしている。




f0236145_17254345.jpg




f0236145_17253030.jpg




夕陽に照らされたそんな人々の顔には、

旅の興奮と高揚が眩しいほど輝いている。

太陽が沈み黄昏があたりに広がっても、

海辺はそんな柔らかい喧噪にいつまでも満ちていた。




f0236145_17272824.jpg




f0236145_17274286.jpg




宿に戻って行く若者の一団からひときわ高い嬌声があがった。

まるでこれから始まる夜の宴が待ちきれないかのように。




f0236145_1729364.jpg




f0236145_17294955.jpg




そうだ、静かな夕陽ばかりでは淋し過ぎる。

この島の日暮時が、いつもこんな風に賑やかで

幸せな空気に包まれていたら、どんなに素敵だろう。




f0236145_17303933.jpg




陽の名残りをこうして笑顔で終えられることは、

本当に素晴らしいことなのだから。




f0236145_17332320.jpg


More…
[PR]
by amboina | 2010-05-30 17:45 | 八重山

夕陽の記憶

f0236145_833873.jpg




海を背に集落の外れまで歩くと三脚を立てた。

時には海辺ではない別の場所で、

この島に沈む夕陽を撮ってみたかったからだ。




f0236145_834465.jpg




f0236145_8343933.jpg




太陽はまだ高かった。

カメラを取り付け、構図を考えながらぼんやりタバコを吸っていると

一台の古ぼけた軽トラックが私の傍らに寄って停まった。

「こんなところで何を撮る?」

訝しげに窓から顔を突き出したその老人に理由を話すと、

彼はしばらく私と三脚のカメラを見比べ、

おもむろにニヤリと笑った。

「この季節なら良い場所がある、教えてやろう」




f0236145_835541.jpg




急いで宿へ戻り、カメラ道具一式を背負って自転車に飛び乗った。

集落の外れから外周道路をぐるりとまわり、島の南側の小さな浜をめざす。

辿り着いたときには夕陽が遠く西表島の麓に沈もうとしていた。




f0236145_854114.jpg




息を飲むような絶景だった。

いまだかつてこんな美しく沈む夕陽を見たことがなかった。

私は切れる息でカメラをセットし、夢中でシャッターを切った。




f0236145_8384843.jpg




夕時の浜遊びにやってきた女性客が、

私がレンズを向ける彼方を覗いて小さな歓声をあげる。

その時、私は去り際に老人が囁いた一言を思い出していた。




f0236145_8392143.jpg




「そこは50年前、俺がばあさんを口説いたところだ」

そう言った老人の目には、大切な秘密を打ち明けるにはふさわしくない、

いたずらっぽい光が宿っていた。




f0236145_8595712.jpg


More…
[PR]
by amboina | 2010-05-29 09:12 | 八重山

常世の扉

f0236145_193872.jpg




都会では夕陽などめったに眺めはしない。

いつの間にか昼が夜に替わっているという感じだ。

しかしここでは、その夕陽を眺めるために多くの人々が集まってくる。

気のあった仲間と、宿で知り合ったばかりの旅友と、

または独りきりの時間を愉しみに。

朽ちかけた桟橋や砂浜に腰掛けて皆が水平線を見つめている。




f0236145_1103758.jpg
f0236145_1122129.jpg




陽が傾くにつれ、水面に揺れる金色の道が浮かび上ってくる。

海を隔てた大きな島影の上で、雲海のふちが細く燃え上がってゆく。

写真や映画の世界で「マジックアワー」と呼ばれる瞬間である。




f0236145_1133624.jpg
f0236145_1183386.jpg




やがて沈みゆく最後の一筋に静かな歓声があがる頃、

どこか遠くで島の釣り人がルアーを投げた。




f0236145_115536.jpg




その鋭い音が、

この海の彼方にあるという

常世の国の扉が閉じる音のように聞こえた。
[PR]
by amboina | 2010-04-27 01:22 | 八重山

夕陽の足音

f0236145_0404876.jpg




民宿での早い夕食を済ませ

すっかり影の長くなった集落を抜けてゆくと

影が伸びてくる方角へ向かって歩く人々と出会う。

よく晴れた日の島の名物を眺めに行く、自分と同じ宿泊客達である。




f0236145_0434695.jpg




沖縄では群を抜く観光地であるこの島も、

日帰りではなく宿泊する客となると、ほんの僅かだ。

そして島で宿泊しなければ決して眺められないものがある。

その一つが夕陽だ。




f0236145_0431334.jpg




島の西に遺る絶景スポットの古い桟橋をめざして

長い影を引いた人々が私を追い抜き歩いてゆく。




f0236145_0401188.jpg

[PR]
by amboina | 2010-04-27 00:50 | 八重山