Amboyna's Color

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神々の舵音

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遠い海鳴りのように、

島に祭りの気配が充ちはじめる頃。




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祭場となる御嶽とその庭は丹念に掃き清められ、

新しい浜砂が敷かれ、幕舎が張られ、

凛とした空気がゆっくりと研ぎすまされてゆく。




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夜ごと公民館や集落集会場で繰り返される

奉納芸能の稽古も熱を帯び、

若者達の威勢の良い掛け声と

長老達の指導の声が高らかに夜空へと響き渡る。




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一年で最大の、そして島にとって最も大切な祭りが

すぐ目前に迫りつつあった。




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深淵から沸き上がるような神然とした空気。

寄せては返し、吹いては止む波や風のように、

高鳴り静まり、また膨らんでゆく高揚感。




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待ちわびながらも、畏れ。

畏れながらも焦がれる祭りへの情熱が、

行き交う島人達の顔に溢れている。




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今夜も集落の近く遠くから、太鼓の音が響いてくる。

大きく小さく、擦れながらも止まないその音はまるで、




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遠い常世の国から海を超えてやってくるという、

来訪神達の船の舵音のように聞こえた。




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by amboina | 2010-09-29 19:24 | 八重山

海からの贈り物

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強い陽射しが落ちる島の外れ。

深紅のブーゲンビリアが咲き誇る一軒の庭の奥に、

その店はそっと控えめに門を開けている。




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石積みには『Island』と彫り込まれた手作りの看板。

軒先には塗り潰したような濃い影が落ち、

真新しい赤瓦の下でシンプルな暖簾が海風に揺れていた。




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店内に足を踏み入れると、淹れたてのコーヒーの香りが鼻孔に満ちてくる。

そして柔らかな灯りを投げかけるシーグラススタンドの向こう側から、

変わらない素敵な笑顔が私を迎えてくれた。




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『Island』。島で唯一のハンドメイドアクセサリーの工房である。

貝殻など自然の素材を生かして見事な作品を生み出すこの工房は、

私が島を訪れるとどうしても足を運びたくなる場所のひとつだった。




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珊瑚が敷き詰められた心地よいレイアウトの店内には、

オーナーが長い時間をかけて集め続けた膨大な貝殻コレクションと、

想像力豊かなクラフトマンシップ溢れる唯一無二のアクセサリー達が、

オレンジ色の柔らかな照明に照らされ所狭しと並んでいる。




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なにより此処で私の目を奪うのは夜光貝を使ったアクセサリー達だった。

巨大な夜光貝から切り出されたパーツは時間をかけて磨き込まれ、

オーナー自らアジア各地で探し求めた細工品と巧みに編み合わされ融合する。

そしてひとつとして同じものはないのだ。




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一点一点こだわり抜いて生み出されたデザインもさることながら、

貝がもつ独特の質感とその艶かしい光沢が私を強烈に引きつけてやまない。

見る角度によって変わる色合いは、さながら真珠のようでもある。




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飽きず新作を眺める私の前に、オーナーはそっとコーヒーを置いた。

そして細かな作業の手を少しだけ休め、にこやかに語りかけてくれる。

その言葉には世界を旅して渡り、この島を自らの場所と定め、

あるがままに生きるための努力を決して惜しまない彼ならではの、

確かな自信がみなぎっていた。




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そして、その笑顔は、

愛して止まない海からの贈り物達に囲まれて過ごす

満ち足りた時間に溢れ眩しく輝いていた。

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by amboina | 2010-09-21 18:03 | 八重山

彼方の物語

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人影のまばらな桟橋についてすぐ、

彼女は宿に腕時計を忘れた事に気がついた。

大切な思い出が宿った時計だった。

取りに戻ろうかという気持ちがふわりと浮かんだが、

桟橋を中程まで歩き進むと、何故だかそんな気持ちも消えてしまった。

そして今日ぐらい、せめてあの夕陽が沈んでしまうまで、

いつもより少しだけ軽い左手のままでいてもいいかなと、

彼女は思った。




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黄金色に染まる水平線を眺めながら、

彼は彼女と初めて手をつないだ日の事を思い出そうとしていた。

遠く島影を疾り抜けてゆく帆船を目で追いながら、

彼女は握りしめた彼の手の指を、飽きる事なく数え続けていた。

朽ちた桟橋に、言葉を失った二人の影だけが長く伸びていった。




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古い桟橋の先端で、二人は微笑んだ。

出逢ってからまだ半日も過ぎてはいない。

お互いの素性も、仕事も、年齢すらまだ知らない。

なのに、まるで古くからの親友のように

二人の間に語る言葉は尽きることがなかった。




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初めて見る南の島の夕陽は、どこか恐ろしかった。

昼間家族と遊んだ、光に溢れた蒼い海はもうどこにも存在していない。

少年にとって沈む夕陽は、楽しい旅の興奮を容赦なく連れ去ってゆく、

巨大な怪物の最後の断末魔のように見えてならなかった。

夕陽に背を向けた少年を、遠くで父親の影がやさしく手招いていた。




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黄金色に包まれた海辺の片隅で、

私はそんな空想のシャッターをそっと下ろす。

目の前に広がった夕陽の桟橋ではそれぞれの現実が息を吹き返し、

4つの物語はレンズの奥底へ静かに消えていった。




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by amboina | 2010-08-14 05:48 | 八重山

頭の中の地図を歩く

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今日は何処を歩こうか。

墨のように濃い影を落とす宿の縁側に座り、

抜けるような青空を眺めながら、

頭の中で島の地図を広げた。




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宿は集落の東にあった。

宿を出て左に曲がれば島唯一の郵便局だ。

郵便局をさらに左に曲がれば、

細い畦道が遠い南の浜へと伸びている。




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宿を出て右へ歩いてゆけば、

島の集落の中心へ向かう迷路のような石垣と、

花の咲き乱れる白砂の街路が広がっていた。




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赤瓦が連なる家並みを抜け、

八重山そばが名物の食堂を通り過ぎ、

そのまま西の集落を越えて歩き続ければ、

古びた桟橋に続く木陰の回廊が見えてくるだろう。




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桟橋から岩場を伝って海岸沿いを歩けば、

南国の離島の夏を満喫する多くの観光客で溢れた

素晴らしい景観のビーチへと辿り着く。




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白い砂浜を静かに洗う波音。デイゴ並木を抜けていく風。

観光客の漕ぐ自転車の軋み。単調な水牛の足音。

そうして頭の中の地図をなぞっていくと、

此処にはない島の音達が耳の奥でざわざわと囁いた。




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影の向こうは煮え立った真夏の大気が揺らいでいる。

宿の庭に差し込む真夏の陽射しはゆっくりと、

しかし確実に涼しい木陰の領分を蝕みつづけている。

影と日向の境界線をまたいだ足の甲が焼けるように熱かった。




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さて、今日は何処を歩こうか。




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by amboina | 2010-08-11 15:19 | 八重山

鏡の中の世界

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鬱蒼と茂った森の木陰の片隅に、

丸く切り取られた街角がぽっかりと浮かんでいる。




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すっきりと晴れ渡った空の真ん中で、

流れる雲と長い一本道が丸い世界の地平へ消えてゆく。




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それはまるで、場違いに掛けられた一枚の絵のようであり、

放り投げたまま落ちてこないパズルのピースのようだ。




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光と影が強烈な輪郭を生む島の午後。

鏡を眺めていると、そんな不思議な錯覚に陥ることがある。

それは僅かな時間、偶然開いた小さな窓から

此処とは違う別の世界を覗き見る感覚に似ていた。




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集落の外れの十字路で二枚のカーブミラーを見上げる。

片側の世界から走ってきた車は、私が立っている世界をひょいと飛び越えて、

もう片側の世界に飛び込み走り去って行った。




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埠頭の外れに停められた作業車の運転席には、

人影も疎らな午後の港の風景が二枚、静かに貼り付いている。




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誰が置いていったのか。

ひびの走ったサイドミラーの中、微妙に歪んだその世界の中心に、

封印されたもうひとつの夏が陽炎のように揺らめいていた。




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by amboina | 2010-08-05 06:09 | 八重山

守護者

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この島の集落を歩くと、常に感じる視線がある。

石垣に挟まれた白い道のあちらこちらから注がれる凝視。

沖縄で魔除けとして飾られるシーサー達の視線だ。




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彼らは赤瓦の屋根に鎮座し、じっと眼を見開いている。

恐ろしい形相で睨むもの、今にも飛びかからんと身構えるもの、

雄々しく四肢を踏ん張り威嚇するもの。




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中には本当に魔を払えるのかと思わず笑ってしまう、

愉快な表情を備えたものもいる。




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遥かな昔、大陸から伝わった頃の獅子の雛形はとうに消え失せ、

家々によって個性的に、想像力の限り多種多様に形作られたその姿は、

さながら幻想世界から召還された獣神の一族のようだ。




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激しい風雨と焼くような太陽に身を晒しながら、

それでも通りを睨み、天を見据え、海の彼方へ吠え猛り

彼らは護るべき家と共に永い年月を超えてゆく。




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赤い甍の波が夢のように連なるこの島で、

屋根の上の守護者達は今も虚空に向かって牙を剥き、

人知を超えた災厄に目を光らせ続けている。




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by amboina | 2010-07-30 04:17 | 八重山

夏至南風

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蒼い空に揺れる貝殻細工の風鈴が乾いた音を鳴らした。

遠い海を渡って強い南風が吹き寄せてくる。

梅雨の終わりを告げ、島に夏の到来を告げる風、

夏至南風だ。




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陽射しに眩むような浜辺。

木陰で海を眺める彼女の頬を、熱い風が撫でた。

彼女の視線の先には紺碧の空と翠玉色の海が広がっている。




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焼けた風は砂浜を吹き抜け、太いガジュマルの枝を揺さぶり

幾重もの風紋を残しながら島中を渡ってゆく。




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空からは梅雨の名残である筋雲が姿を消し、

かわりに巨大な積乱雲が天と地の隙間を埋めるように立ち上がる。




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夏がやってきたのだ。

海と山と、空と島の大地の上に、

盛大な足音を響かせ、高らかに名乗りを上げながら、

心躍る灼熱の夏が島に帰ってきたのだ。




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頬を撫でた風の感触に彼女は微笑んだ。

そして生まれたばかりの、その真新しい夏匂いに満ちた世界を、

いつまでも眩しそうに見つめていた。




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by amboina | 2010-07-25 11:52 | 八重山

午後のいざない

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海神祭の翌日。爬龍船競漕で湧いた集落をひとり訪れた。

祭りの熱気が拭い去られた港を背に、

小雨の舞い降るひっそりとした家並みを眺めて歩く。




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道端の木々も屋根の瓦も一様に苔むして見えた。

しっとりと湿った空気の中に静かな気配が充満し、

そぞろ歩く私の足音を飲み込み消してゆく。




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集落の中心近く、目を奪う明るい大輪が揺れていた。

雨雫を纏ったその明るいハイビスカスがあまりに美しかったので、

何枚か写真に収めていると、かすれた小さな声が笑った。

「にいさん、そんなにハイビスカスが珍しいか」




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振り返ると、小柄な老婦人が道端に佇み私を見つめていた。

大きな眼鏡の奥で優しい瞳が微笑んでいる。

「今年は雨が多いからね、そら、花も大きく開くよ」




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お茶でも飲んで休んでいきなさいねと、

手招く彼女についてふらりとくぐった門の先には、

少し痛んだ琉球家屋と手入れの行き届いた緑の庭が広がっていた。

そしてその庭に面した小さな縁側で、彼女は私の隣に座り、

夢を見るようにやさしく頷いた。




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この家のほとんどの部材に使っている虫に強い木の話。

庭木として大切にしているという黒木の由来。

御盆に帰ってくる孫達のために育てている鉢植えの花の話。

彼女が徒然に口にする物語はすべて、

縁側から眺める事のできる木々や緑の話だった。




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二杯目のお茶を啜り終えた頃、

近くの小学校で下校を知らせるチャイムが鳴った。

その音を潮時にお茶と話の礼を残して腰を上げると、

彼女は門の外まで見送りに出てくれた。




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雨は細く、変わらず集落の道をどこまでも濡らしている。

それでも時々、流れの速い雲の切れ間から差し込む小さな日溜まりが、

黒々とした路面のあちらこちらに明るい光の帯を投げかけていた。




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「雨が強くなったら戻ってくればいいさ」

門前の石垣にもたれ小さく手を振る、そんな老婦人の言葉が、

なぜだかとても嬉しかった。




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by amboina | 2010-07-23 08:36 | 南方行脚

謡いの港

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爬龍船競漕に湧く桟橋の一画。

小さな儀間の港を背に建てられた櫓の上へ、

それぞれの三線を手に島の子供達が駆け上がって行く。




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朝早くから始まった海神祭の余興として、

島の小中学校に通う子供達だけで結成された

民謡グループが演奏するのだという。




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少女達の涼しい声が連なり、

基礎のしっかりした三線の音と重なり合う。

色艶やかな祭衣装を身に纏った彼女達が披露するのは、

まぎれもない琉球民謡の数々である。




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その演奏を聞いて驚いてしまった。

背筋をぴんと伸ばし、視線を凛と前に据え、

堂々と三線を腰に当てた立ち姿は、

観客の年寄り達も唸る見事なものだったのだ。




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謡いは情け唄からポップスへ、そして地元の民謡に移る。

やがて賑やかなカチャーシーへと弾き繫がれていくと、

櫓を取り巻いていた人垣から自然と踊りの輪が広がっていった。




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やがて全ての演奏が終わり、

満場の喝采を残して人々の関心が爬龍船競漕に戻って行く頃、

ステージ下でくつろぐ彼女達の姿を見つけた。




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緊張の解けたその顔からは、

先程までの凛と張りつめた光は消え失せ、

等身大の少女のあどけない笑顔で輝いていた。




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by amboina | 2010-07-20 01:59 | 南方行脚

爬龍の鐘

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港は静かな熱気に満ち満ちていた。

賑やかな三線と歌声が響く中、

興奮を隠せない様々な顔が忙しなく行き交っている。




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旧暦の五月四日。

海神祭のこの日、漁の安全と豊漁を祈願した伝統行事である

爬龍船の競漕が島の各漁港で盛大に開かれていた。




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空は相変わらずの曇天だったが、

時おり薄い陽射しが差し込む湾内は

詰めかけた人々の熱気がそうさせるように、

言いようのない予感を含んで波高くざわめいている。




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スタートを告げる鐘が鳴った。

岸壁や防波堤に陣取った島人があげる声援の先、

喫水の低いサバニの上で11人の男達のかけ声が重なり合い、

勇壮な櫂さばきを推力に三艘の爬龍船が波を切って疾走する。




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爬龍船競漕の鐘が島に響くと梅雨が明けるという。

夏を呼ぶその高らかな鐘が港に鳴り渡るたび、

地元の子供も老人達も、見ず知らずの観光客同士も、

低い雲を突き破るほどのかけ声を合わせて懸命に櫂を漕ぐ。




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転覆する船や、大差がついた競漕もあった。

しかし水飛沫の中に弾けるみんなの笑顔と笑い声が、

この祭りに勝敗などないということを伝えている。




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ひときわ盛大に鐘の音が鳴った。

祭り最後の爬龍船が渦巻く歓声と熱狂を切り裂き

疾風のように港を駆けていく。




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その煌めく航跡の中にほんの少しだけ、

待ちわびる真夏の光が閃いたような気がした。




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by amboina | 2010-07-17 04:03 | 南方行脚