Amboyna's Color

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ちいさな贈り物

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穏やかな海風が吹いている。

眼前に広がる西表島を回り込むようにやってる僅かに涼しい風は、

島の浜辺を撫で、灯台をかすめて北へと走り去っていく。




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そんな風に身を晒しながら島の外れで夕陽を待っていた。

この島の夕陽は水平線に落ちる。

海の向こうに島影が折り重なる通い島では、

望んでも見ることのできない夕陽が眺められるはずだった。




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崖沿いの荒れた草地に三脚をたてていると、

近づくけたたましい排気音と、はじけるような声が私を呼んだ。

友人の運転する軽トラックだった。

その荷台では二人の少女が手を振っている。




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草薮を踏みしだき笑顔で駆け寄ってきたのは、

昼間一緒にカメラを撮りながら遊んだ島の姉妹だった。

「おっちゃん、これあげる」

年下の妹がぶっきらぼうに、形の崩れた蚊取り線香の箱を私に投げてよこした。

振ってみると中でじゃらじゃらと乾いた音がする。

面食らって箱を見つめる私を、姉妹はニコニコと眺めていた。




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「昼間遊んでくれたお礼ですって」

運転席で微笑んでいる友人の言葉にうながされ開けてみた箱の中からは、

浜で拾った小さな貝殻を有り合わせの紐で結んだだけの

かわいいブレスレットがふたつ転がり出てきた。




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やって来た時と同様にけたたましく去って行く彼女たちを見送りながら、

沈む夕陽の中でその手作りの贈り物を眺めた。

綺麗な貝殻の表面には、開け損ねた穴の痕が幾つもついている。

きっと大急ぎで作ったに違いない。

手のひらの貝殻にあの二人の笑顔が重なる。

もう夕陽を撮ることなど、どうでも良くなっていた。




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宿に戻る途中の港の端。

夕涼みをかねた釣りを楽しむ少女たちの家族を見かけた。

茜色の空の下、吹き止みつつある潮風に乗って和やかな声が響く。

さざめく波の音と黒々と浮かび上がった島影を背に

最後の陽を浴びた睦まじいシルエットが四つ、

温かな影を延ばしていた。




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by amboina | 2010-06-07 21:47 | 八重山

海人の港

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八重山諸島の外れ、西表島を間近に望む鳩間島は

人口60名足らずの漁業の島だ。




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集落を区分する道は縦横どちらも十本に満たない。

その道々に素朴で生活感を漂わせた赤瓦の住居が身を寄せ合っている。

集落の周囲はうっそうとした自然に囲まれ、

どの道も数百メートルも進めば深い森へと行き当たってしまう。




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そして道を海へと下ると、そこには漁師達の生活の場である

瑠璃色の海と小さな港が広がっていた。

漁船やダイビングツアー船が停泊する古びた桟橋の向こうには、

各島を結ぶ高速船が横付けされる浮き桟橋も真新しく光っている。




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港であっても、その透明度は呆れるほど高い。

ヘドロや排水で汚れた内地の港湾とは比べようもない、

今すぐ飛び込んで泳げる海が防波堤に囲まれた湾内を満たしていた。




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人工の桟橋やテトラポッドと、魚が群れ泳ぐ豊穣の海。

対極にあるような二つの景色が渾然一体となって島に溶け込み、

理想郷のような景色を生み出している。




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陸揚げされた漁船の影に腰を下ろし、港を出て行く船を眺めていると

近くの空き地から楽しげな音が届いてきた。

島に移住した友人と、内地の三線弾きたちが集まって、

島人と即席の音楽会を開いているのだ。




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午後も遅く、その長閑な音と歌声を聞きながら

重くなった瞼を閉じようとしたとき、

瑠璃色の水面を叩いて大きな魚が跳ね上がった。




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慌ててカメラを構え起き上がると、

小魚を追う一匹の大魚がまるで宙を泳ぐように

水底の影を伴って明るい緑の中に融けてゆくところだった。




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by amboina | 2010-06-06 13:05 | 八重山

瑠璃色の島

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地元から移住していった友人を訪ねて、

その小さな離島に初めて降り立ったのは、

2年前の秋の終わりのことだ。




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石垣島から高速船で40分あまり、

輝くような瑠璃色の海に囲まれた鳩間島は

私の予想を遥かに超えた南海の孤島だった。




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今でこそ人気ドラマのロケ地として有名になり訪れる人も増えたが、

それ以前は観光客もまばらな過疎の島だったという。

そのためか、手つかずの自然と澄み切った海は、他の八重山の島々では見ることのできない

昔ながらの素朴な美しさを保っていた。




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島の中央近く、「中森」と呼ばれる鬱蒼とした丘には、

島と島の近海を航行する船を導く純白の灯台が聳えている。

灯台の丘を越えた先は、二本の轍が消えて行く匂い立つような密林だ。




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その灯台を眺めながら島をぐるりと一周する外周道路も、

ひと巡りするのに一時間とはかからない。




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しかし、なにより圧倒されたのはその海の色だった。

遥かな水平線の彼方に向かって、

ありとあらゆる緑の明暗が、刷毛ではいたように果てしなく続いてゆく。




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それはまるで印象派の画家が描いた絵画のようでもあり、

海神が機織った瑠璃色の王衣のように輝いても見えた。




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by amboina | 2010-06-04 14:10

ふこらさーゆー

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八重山の離島に移住した友人がいる。

外資系IT企業の職を捨て、恋人と別れ、生き甲斐だったバンド活動も辞めて

ただひとり、大都市から人口60名弱の過疎化が進む島に移り住んだ。




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もともと沖縄と音楽が大好きで、琉球民謡にもどっぷり浸かった男だった。

「いつかは沖縄で暮らしたい」

そんな夢みたいなことを口にしていた男だった。




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そんな男が数年前の初夏に八重山を旅した。

年に一度開催される離島の音楽祭に参加するためであったが、

その帰りの船の中で彼はもう移住を決心していたという。

彼はたった一度訪れただけのその島に魅せられてしまったのだ。




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はじめてその移住話を聞いた時、私をはじめ周囲は大反対だった。

初めての土地への移住というのは容易なことではない。

ましてや沖縄の離島で生活するなど至難の業だ。

せめて一年ないし二年は地元で猛烈に働き資金を貯め、

充分に計画してから行っても遅くはないだろう、と忠告した。




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しかし決断してからひと月半後、

彼は呆れるほど見事に身の回りを整理して島に渡って行った。

見送った我々には整理の着かない心配だけが残った。




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その年の夏の終わりに、私は彼に会いに件の島へ渡った。

驚くほど何もない静かな島で、彼は毎日島の魚を釣り干物を作っていた。




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次の年、干物を作っていた会社はなくなり、彼は無職となっていた。

「自分で作った店で商売がしたい」

見事に漁師焼けした顔を綻ばせて、彼は明るく夢を語り笑った。




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はたして数ヶ月後、三たび訪れたこの島で私が見たのは、

掘建て小屋のような飲食店を自力で作り上げ、

見た目は悪いが抜群に美味しいピザを作って暮らす、

元気で幸せそうな彼の姿だった。




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窓辺の特等席でそのピザを味わいながら、

私は彼の語る新しい夢の計画を背中で聴いている。

そして邪推な心配と説教を、見事に結果で返してみせた彼を

どこか腹立たしく、そして誇りに感じていた。




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by amboina | 2010-06-02 10:23 | 八重山