アコークロー

中世ヨーロッパのドイツでは満月のことを
「天の覗き窓」と呼んだという。
夜空に輝く眩い円形を、神のあけた覗き窓に例えたのだそうだ。
そういえばと、あらためて眺めてみると
子供の頃に濡らした指であけた障子の穴に似ていなくもない。

沖縄では「アコークロー」という、
マジムンと呼ばれる魔物が出没する時刻があるのだそうだ。
大方は夕方や黄昏時の頃を指すらしいが、
天に開いた円い覗き窓のような月の浮かぶ夜なども、
いかにも禍々しく立派に妖しい時間と言えるだろう。

誰一人歩いていない集落の道をぽつんと照らす街灯。

闇の向こうに聳える瓦屋根の巨体。

ひとたび月の光を浴びれば、
見慣れた電柱の丸木も、海辺の軽トラックさえも
それなりに恐ろしいマジムンに見えてくるから不思議だ。

などとぼんやり考えながら
月を見上げて歩いている場合ではないのかもしれない。
天の向こう側にいる得体の知れない何者かが
今もじっと、こちらの様子を伺っているかもしれないのだから。


さてさて、そんな妖しげな沖縄の夜。
恐ろしいのはマジムン(魔物)だけではございません。
様々な観光写真などで美しく紹介されている珊瑚の砂の道。
じつは猛毒で知られるハブ(毒蛇)対策でもあるらしいのです。
不思議なことに沖縄にはハブのいる島といない島があります。
太古の時代、陸続きだった沖縄が後に海に沈んで列島となった時、
ハブの住む山と住まない山がそれぞれ島となり、現在のまちまちな生息環境になったそうな。
残念ながら私の通う島にはがっつりハブがいます。
真っ白な砂を敷き詰めた道は夜闇でも道を這うハブを見つけやすい、という理由もあるそうです。
沖縄で「ハブ注意」という標識のある島に行かれるみなさん。
ハブは日中、石垣(これも有名な伝統様式)の中で寝ていて、夜になると道に這い出してきます。
夜中に道を歩く時、必ず道の真ん中を歩きましょうね。
もし噛まれたら、救急ヘリでの有り難くない夜間飛行が待っています。

by amboina
| 2010-05-06 01:59
| 八重山